熱くなったと思った瞬間、
瞳に映った景色に、
感情が走る。
抑えきれない涙と弱さに
自分を見つけてしまった。

・・・RIVIVE・・・
#2.影

人気のない静かな風が私を通り抜けていった。
相変わらず真っ青な空の下、
私は一人で仰向けになって、
空を見つめて考えていた。
もう大丈夫。
いつもの私に戻れる。
本当の自分を認めてしまう事が
今の私に一番してはいけない事なのだから。
教室に戻ろう。
もうこんな事はあっちゃいけない。
あと少し我慢すればいい。
チャイムがなって休み時間になったらいつもと同じように。
すると、バタンと扉を開ける音がした。
走ってきたのか、息づかいが荒くなっているのが分かる。
誰・・・・???
「由貴ッ・・・・」
それはまぎれもなく、美佳の声だった。
私は起きる気もなく、目をつぶっていた。
「由貴ッ何隠してるわけ!?こっちこそいい加減にしてよ!!」
屋上に美佳の高い声が響く。
何も言うつもりはなかった。
けど、どうしても
美佳の感情にここで見切りをつけなきゃと思った。
「別に。何も隠してなんかないよ?何言ってんの?」
声が上ずんないように、ゆっくり美佳に言った。
目をつぶったまま。美佳の顔を見ないまま。
さわさわと葉が揺れる音がする。
お願いだからもう私を迷わせないで。
「昔の…あたしの友達に似てるの…、由貴が。」
美佳が呟いた。
「だから何?何が言いたいわけ?」
私は調子を変えずに、
ぐちゃぐちゃになった気持ちを隠して
言った。
「あたしは由貴と友達になりたい。
由貴は何か隠してるから、
辛そうだから。」
「だーから、何も隠してないって言ってんじゃん…?
なんでそこまで私にこだわるかわかんないし…」
ダメだった。
目つぶってるのに、
涙が溢れるのが分かる。
由貴、ダメなんだよ…
泣いちゃダメ…。

「あたし、昔、親友亡くしたんだ。」

美佳がその言葉を口にした瞬間、
私の涙は止められないものになった。
「後悔したよ。事故だったけど、
なんであの時ああいってあげなかったんだろうとか、
いろんなコトしてあげられたのにって。
もうどうやって考えていいかわかんなくて。
でも、あたしは今居る友達を
大切にしてくコトで、あの子を・・・莉絵を
励ませる気がして、これから絶対後悔なんてしないように
しようと思ってきた。だから、
どんな人でも、どんな友達でも、
私は大切にするって決めたの。
由貴もその一人だから。
…話して…?」
美佳も泣いていた。
私を心配そうな顔で見下ろしながら
目に少しだけ涙が浮かんでいた。
何その、私のためにあったみたいな理由…。
私は空に向かって泣いていた。
「…私…あと3ヶ月で死んじゃうよ。
それでもいいの…?」
私の小さな声が静かに屋上に響いた。
あーあ、
言っちゃった。
聞こえるのは息のつまる音と風になびく葉の音だけ。
一瞬の間が永遠に感じる。
「ゆ、由貴も…由貴も死んじゃうの…?」
美佳の頬についに涙が伝い落ちた。
首を横に小さく振りながら、
美佳は私のところで歩いてきた。
「由貴…?」
涙が止まらなくて息が苦しい。
「ご、ごめん・・ね…。」
一言言うのが精一杯だった。
美佳まで…他のみんなまで…
あんな悲しみを、感じさせてしまうなんて。
バカだなぁ、私。
「由貴ッ…は、話してくれて…ありがと…」
必死に目を腕で隠して
私は泣き続けた。
美佳も私の横にしゃがみこんで
静かに泣いた。
どれだけ泣いたか憶えてない。
ただ、1つだけ確かなコトは、

“大丈夫あたしは絶対由貴に後悔させない”

そう言ってずっと私の横に
“友達”がいてくれたコト。