壁を越えれば、また壁があるのは当然。
私は絶対負けたりしない。

・・・RIVIVE・・・
#5.傷

次の日から、予想通り“軽いいじめ”の始まりだった。
でもそれは全部初歩的で、
上靴に接着剤が塗られてたり、
ノートに悪口がかかれていたり、
そんなもんだった。
それに私は初めから周りの人とはほとんど関わってないし、
美佳と綾だって変わらず傍にいてくれる。
何も怖くない。
何がしたいの、藍実は。
「なんかいい加減にしてほしいよね、こんなちゃっちぃ事、
続けられてもねー」
美佳が藍実をチラ見しながら、グチを言ってる。
綾はひたすら藍実にガンを飛ばしてる。
「いいよ、やらせておけば。いつか飽きるよ。」
私は凹んでもいなければ、そこまで藍実を見てもいない。
何でもいいから私に干渉するなってこんなに訴えてるのに。
「はぁー」
その時、ずっと見ていただけの藍実が
私のもとに数人の友達と一緒に近づいてきた。
ここで強めにいかないと。
「何?」
そう一言だけしっかりと藍実を見据えて言った。
「調子のってんじゃねぇよ」
藍実も一言だけ、すごみを効かせて言った。
その言葉にみんな、しんと静まり返る。
「だから何?」
もう一回、静かに訊いた。
何が言いたいわけ?
「泣いたりすれば?いじめてるんだから。」
口元で藍実が笑った。
そんなもの私は怖くないから。
死に比べればそんなもん、どうでもいいんだよ。
「だって怖くないし。」
私も口元で少し笑った。
藍実の目から笑いは消える。
みんなの視線が痛いほどに刺さる。
「だから調子のってんなって言ってんの。
転校生のくせに気取ってんのか知らないけど。」
鋭い目で責めたてるように私を睨む。
睨み返す。
「あんたは私の何?別に何でもなくない?」
その一言に藍実から余裕が消えた。
「は?あんたの方が必要とされてないよ?死ねば?」
・・・・・私の思考回路がたった1つのその言葉でおかしくなった。
冷静さが吹っ飛ぶ。
死ねば?死ねばって?もうすぐ死ぬのに?死ななきゃいけないのに?
3ヶ月しかないのに?今、私に死ねって?
一瞬のうちに数え切れないほど、いろんなものが浮かんでは消えた。
何を考えてるのか分からない。
ただ私は勝手に藍実をひっぱたいてた。
パシンッ
高い音が響く。
パシンッ
痛ッ。
私の頬にも衝撃が走った。
「死ね。」
同時に聞こえた言葉がそれだった。
もういい。もういい。
気づいたら私は涙ぼろぼろで大声で叫んでいた。
「じゃあ、死んでやるよ!!!死んでくるから!!!死ねばいいんだろ!!!」
屋上だ。屋上しかない。
死ぬしかない。
後ろから大声で呼ぶ声がした。
美佳だ。
「やめてーーー!!!!!由貴!!!行っちゃだめーー!!」
止まらないよ。どうせ死ぬんだ。
死ねって思われてる、死んでもいいじゃん。
走った、全速力で。
バンッ
思い切り開けたドアの向こうには屋上。
今日も綺麗な空。
あの時も見た空。
屋上のふちに駆け寄った。
フェンスを登らなきゃ。
死ななきゃ。
階段を駆ける音なんか気にしない。
私はフェンスを掴んだ。
今日もあの風が吹いた。
私の頬から涙が落ちる。
力を振り絞って、
体を上げていく。
空が近い。
私の死も近い。
バイバイ、みんな。
それを望むなら私は死ぬよ。
どうせ死ぬんだ。
目の前が揺れた。